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2007年11月27日 (火)

アンダーソン『想像の共同体』(ナショナリズムの発生と歴史的展開の要約)

ナショナリズムの発生以前にあった共同体の代表としてアンダーソンが取り上げるのは、「宗教共同体」と「王国」という二つの文化システムです。この二つの共同体は「聖なる言語」とそれを読む文人を中心にして想像される共同体でした。「聖なる言語」は領土や民族にも限定化されません。つまり、その言語を学びさえすれば原理上誰でも「聖なる想像の共同体」に編入可能だったのです。

また、「時間の了解」形式も、当時と現代とでは違っておりました。「聖なる想像の共同体」における時間の了解形式は、当時のステンドグラス等を見れば感じられるように「円環的」でした。つまり当事において、過去の出来事は「歴史という原因・結果の数直線をたどって現在へとたどり着く」というようなものではなく、宇宙論と歴史とは区別不可能なものだったわけです。アンダーソンはこの観念を、ベンヤミンの言葉を借りて「メシヤ的時間」と呼びます。

ナショナリズムの発生と歴史的変化は、この二つの共同体と、それを構成する「聖なる言語」や「メシヤ的時間」という観念を掘り崩す過程として描かれます。簡単に言えば、「聖なる想像の共同体」から「国民共同体」への変化は、①時間の了解形式における「メシヤ的時間」から「均質で空虚な時間」への変化であり、②「聖なる言語」の特権性が「出版語」によって相対化・領土化されていく変化であると捉えられています。その要因・キーワードとして上げられるのは、「時間の了解形式の変化」「出版資本主義」「巡礼」の三つです。それでは以下、ナショナリズムの発生と歴史的変化について述べていきます。

「聖なる想像の共同体」が「国民共同体」へと変化した主な要因として第三章で挙げられているのは、①「生産システムと生産関係(資本主義)」、②「コミュニケーション技術(印刷・出版)」、③「人間の言語的多様性という宿命性」の間の爆発的な相互作用です。世界にはさまざまな言語が存在するのですが、出版資本主義の要請はそのすべてを出版物として採用することを求めません。「多様な個人言語」から「少数の出版語」が選び出されるのです。そして、こうして誕生した出版語は、①交換とコミュニケーションの統一の場を創造し、②言語に新しい固定性を付与し、③口語間の地位を分化することで、国民意識の基礎を形成します。これらさまざまな要因により、「聖なる言語」の特権は相対化され、俗語が国家と結びつきうる下地を形成していきます。

以上がナショナリズムの発生に関する理念的な説明なのですが、アンダーソンはその歴史的変化を四段階(「四つの波」)に分けて記述します。

その「第一の波(クレオール・ナショナリズム)」は南北アメリカ大陸を舞台として発生します。南北アメリカ大陸の諸国家の独立の要因としては、自由主義や啓蒙主義の到来や経済的利害などが一般的には挙げられますが、アンダーソンはそれらを否定します。彼が挙げる要因は二つ。その一つ目は、クレオール役人による世俗的「巡礼の旅」です。「巡礼」の重要な点は「このせまくかぎられた巡礼の旅において、彼は旅の同伴者と巡り合い、かれらはその共同性が、その巡礼の旅の特定の広がりにもとづくばかりではなく、大西洋のこちら側で生まれてしまったという共通の運命にもとづくものであることを悟るようになった」(アンダーソン1997102-103)という点です。彼らはこの旅の中で「相互連結の意識」を育みます。要因の二つ目は、地方のクレオール印刷業者を中心とした出版資本主義の到来です。一六九一年から一八二〇年にかけて、二一二〇もの新聞が発行されました。この新聞の発達により、国民の想像の共同体にとって重要な「時間軸に沿った着実で揺るぎない同時性の観念」が想像されるようになっていきます。

「第二の波(俗語ナショナリズム)」の舞台は欧州です。このナショナリズムは、①人文主義者の[古典]発掘と、②ヨーロッパの全地球的拡大にその淵源があります。この二つの要因により、「均質で空虚な時間」と“「私有財産的言語」と結合した国民”という観念が生まれました。また、こうした観念はブルジョワジーと知識人をその苗床として広まっていきました。第二の波の特徴として挙げられるのは、①「国民的出版語」が政治的に中心的な役割を持ったこと、②フランス革命以後、意識的に達成すべき「モデル」が形成されたこと、の二点です。こうして後のナショナリストたちが「海賊版」を作成するための「モデル」が形成されたのでした。

第三の舞台は欧州とアジアです。アンダーソンはこれを「公定ナショナリズム」と呼びます。フランス革命以降にヨーロッパ各地で興隆した民衆ナショナリズムは、(さまざまな民族や言語が、支配層・被支配層共々に入り乱れている)王朝帝国と(「民族と言語の同一性」を理念とする)国民の矛盾を必然的に引き起こしました。こうした運動の後に、それへの応戦として発展した運動、それが公定ナショナリズムです。公定ナショナリズムは、「共同体が国民的に想像されるにしたがって、その周辺においやられるか、そこから排除されるかの脅威に直面した支配集団が、予防措置として採用する戦略」(アンダーソン1997165)として展開されました。具体的な政策としては、国家統制化の初等義務教育、国家の組織する宣伝活動、国史の編纂などですが、それらを通じて「王朝と国民が一体であること」が際限なく肯定されました。要するに強制的な「国民化」政策が行われたのです。公定ナショナリズムの事例としてアンダーソンが挙げるのは、ロシア、イギリス、日本、シャムとハンガリーなどです。これらの諸国家において、「本国への世俗的巡礼からの被支配地域出身役人の排除」が行われました。

ナショナリズムの「最後の波」は、産業資本主義によって可能となった新しい型の地球的帝国主義への反応として発生し、第二次大戦後の時代にはっきりと姿を現しました。アンダーソンはこれを「反植民地ナショナリズム」と呼びます。この時代に現れた新興国家の「国民建設」に大きな役割を果たしたのは、各地の二重言語のインテリゲンチアでした。彼らは、ヨーロッパの言語ナショナリズムからは強烈な人民主義を、公定ナショナリズムからは「ロシア化」政策志向を継承しました。こうして、いまでは「モジュール」となったナショナリズムの歴史的経験と、物理的・知的コミュニケーション技術の発達は、文盲の大衆から異なる言語を読む識字者大衆にいたるまでの「想像の共同体」を宣布することを可能にしたのです。

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